旅人たち
旅したい。
違う言葉。見慣れないけしき。次の角を曲がれば何が見えるのだろう。
日常から切り離された時間に身を置きたい。異邦人になりきって街を闊歩するのだ。
もちろん、ありきたりな観光地やお土産はスルー。空気感と匂いと風だったら買って帰ろうか。
友人がヘリの操縦免許をアメリカでとることになり、私も便乗でアメリカを旅したのが20代の終わりごろ。とにかくお金がなかったので 、格安のチケットでフライト、宿泊はアメリカ人と結婚した友達のお姉さんの家に居候させてもらった。旦那さんは軍の事務系の仕事をしていて、家族は子供が三人と熱帯魚と猫のミッドナイトとソックス。真っ黒な猫だからミッドナイト、足先が白い靴下はいているみたいだから、ソックス。モハーヴェ砂漠のエドワーズ空軍基地に隣接する小さな住宅地に住んでいた。
妹の友人とはいうものの、見ず知らずの小娘(わたし)にも家族みたいに接してくれて、ほんとに明るくて逞しいお姉さんだった。
旦那さんとケンカしたときは、庭にでて星を眺めながら煙草を吸うのよ、と笑ってたけれど、あんな何にもない砂漠の真ん中で、生まれた国から遠く離れて見る星はどんな光で瞬いてみえるのかな、と私は時差ボケの頭でぼんやり考えてみてた。
誰でもが旅人。
華やかな旅行ガイドには載ってない自分だけの旅路だ。
思いがけない悪路や不運な日があっても、同じような旅を続けてる沢山の人達の足跡を頼りに進もう。
その足跡は、彼女がみてた砂漠の星のように私のなかで輝やくから、辿っていける。